第1回: このゲームを思いついたきっかけ
背景
もともと私は、LLMを使ったゲームを作っていました。以前作った作品は「人間が考えたお料理レシピを、AIが判定する」というものでした。人間の創造性をAIがどう評価するのか、その判定結果がどんなゲーム体験につながるのか——純粋な興味から生まれたゲームです。
1年前はまだテキストベースのやり取りが中心でしたが、現在はマルチモーダルなモデルが主流になりつつあります。ローカルLLMではQwen 3.5系、クラウドAPIではGeminiやKimiなどが代表的です。そうなると自然に湧いてきた疑問がありました。
「人が描いた絵を、AIが判定したらどうなるのだろう?」
試してみた結果
実際に試してみることにしました。絵が下手な自分が、30秒くらいで頑張って描いた絵を使いました。例えば「赤い服を着た女の子が風船を取ろうとジャンプしている」くらいの、シンプルで素人らしいレベル感です。
結果として、要素の判定自体はかなり正確にできました。さらに、スタイルの判定や「絵の上手い下手」についても、意外と的確にコメントしてくることがわかりました。複数のAPIを試しましたが、判定の傾向にそこまで大きな差は感じませんでした。
市場を調べてみると、すでに「描いた絵がどれだけ上手いかをAIで判定する」「AIにばれないように絵を描く」といったコンセプトのウェブゲームは存在していました。ただ、それらを見たとき、「もっとゲーム性を高めた形で、自然にAIを組み込んだお絵描きゲームを作りたい」という気持ちが強くなりました。
参考にしたゲームと方向性
参考にしたのは、日本でいう「いつどこでだれがなにを」ゲーム(英語だとMad Libs)です。単語を組み合わせるだけで自然とカオスなお題が生まれ、それがそのまま面白さにつながる。この構造が、お絵描きと相性が良いと感じました。
ただし、単純に「みんなが同じお題を描く」形式だと、自然と絵が上手い人が面白いだけになってしまいます。そこで、お題を作る側にも戦略性を持たせたいと考えました。
親と子の非対称性
そこで導入したのが「親」と「子」という非対称な役割です。
- 親は、子に上手く描かせなかったら勝ち
- 子は、上手く描けたら勝ち
この基本ルールを軸にしました。さらに、出てくる単語の難易度で点数を変えることで、戦略の幅を広げています。「簡単な単語をあえてミスさせるか」「難しい単語を出してコンプリートボーナスを防ぐか」——親側にも判断の余地が生まれます。
また、全員が順番に親を担当する形にしています。これにより、特定の人がずっと有利・不利になる状況を避け、1ゲームを通して全員が両方の立場を経験できるようにしました。
親が強すぎないようにした工夫
このままだと親がかなり有利になりやすいため、いくつかの調整を入れました。
- ブロック機能を用意し、「まったく絵が描き始められない」状況を防ぐ
- 子側も、何人参加しても「場にカードを出すか、パスするか」を自分の意志で必ず選択できるようにした
これにより、「自分がこのゲームに影響を与えている」という実感を、子役のプレイヤーにも持たせられるようにしています。
オープンな情報設計とテンポの工夫
MadDrawは、Discordなどでワイワイしながら遊ぶことを想定しています。そのため、情報を隠さずオープンにしました。誰かがお題を変えた瞬間に、周りの人が「難しくない?」「その選択肢は熱い!」と自然にコメントしやすい設計です。
絵を描くシーンがだれてしまわないよう、制限時間の途中(30秒時点)で親の隠しお題を公開するイベントも入れています。これは親の干渉度を高める狙いと同時に、1分という時間の中で子側が早く描き終わって飽きてしまうのを防ぐ狙いもあります。
フロー理論との関係
ルールを考える際に意識したのが、フロー理論です。人が「今この瞬間に没頭している」状態を生み出すための要素を、ゲームの中に自然に入れたいと考えました。
具体的には、次のような点を意識しています。
- 本質的な創造性の活動:絵を描くことそのものが、プレイヤーにとって意味のある行為であること
- 制御している感覚:カードを出す・パスする・お題を仕掛けるなど、自分の判断が結果に影響すること
- 明確な目的:上手く描く/上手く描かせない、というはっきりした目標があること
- チャレンジできる余地:難しいお題はあえて無視する、という選択もできること
- 直接的・即座な応答:Discord上の周りの反応や、高速なAI推論と明確な判定基準がすぐ返ってくること
- 短時間での区切り:短いお絵描き時間と、途中でお題が変わるイベントが、フロー状態への入り口になりやすいこと
これらが組み合わさることで、「ただ絵を描く」以上の没入感が生まれることを期待しています。
AI判定の工夫
AIによる判定も、ただ「要素が満たされているかどうか」だけに留めませんでした。それだけだと感想戦が盛り上がりにくいからです。
「誰が一番うまかったか」や「絵を見たAIのコメント」を合わせて提示することで、ある種不条理なAIの判定結果が、場の面白さにつながるよう意識しています。
個人的な想い
個人的には、いろいろな工夫を凝らしたゲームではあります。ただ、実際に遊ぶときにはそうした設計意図を忘れて、友人や家族との楽しい時間の一助になってくれたら嬉しいです。
次の課題
次回は、開発でAI-Agentをどう使い分けたかを、実際の作業フローで公開します。
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